(31)魚をとるのは、
     どこの猫でも同じ

光に向かって

 主人が帰宅した。妻が裏口で、棒を持って構えている。

「おまえ、そこで、なにしてる」
「あら、おかえり。私、いま腹がたってしかたがないの」
「いったい、どうしたんだ」

「今日ね。あなたの好きなハマチ、千五百円もだしてよ、買ったの。それをマナ板の上においたとき、ご飯が炊きあがったので、火を弱めて、ひょいと後ろを向いたらあなた、アノ盗人猫めが、魚くわえて床下に逃げこむじゃないの。いくら呼んでも、目を光らせて、うなってばかり。私、くやしくて、くやしくて」

「よしよしわかった。ところで一度、静かに考えてみようじゃないか。猫は主人がハマチが好きで、千五百円も出して買ったと知っていただろうか」
「そんなこと、猫が、知るもんですか」
「では魚をとるのは、ウチの猫だけか」
「そりゃ、どこの猫でもとりますわよ」
「そんな猫に魚をとられる主婦は、賢いのか、ばかなのか。もしこの事件を仏さまが裁判なされたら、訴訟費用は原告の、おまえが持たねばなるまい」
「もういいわ。私、猫をたたきません」
「イヤ、たたけ、たたけ」
「でも、猫が悪くないもの」
「どちらが悪いか」
「私が悪かったのよ」
「それじゃ、お前の頭をたたいておけ」

 猫が魚をとるのは開闢以来のことなのだ。

 腹をたて苦しむのは、いつでも、己が正しいと思うのが原因である。

高森顕徹著 光に向かって 100の花束より)

 

光に向かって100の花束 もくじへ

 


高森顕徹 公式サイト
更新履歴

2012.01.30ヤシの木の下で昼寝をすると、幸福になれるのか? 楽園にいたカロザース(光に向かって)

2012.01.30目先に一喜一憂しては、遠大な未来を見とおせない(光に向かって)

2011.11.22推薦状などにたよるな!なにものにも勝る紹介状を身につけよ!(光に向かって)

2011.11.22工夫とねばりが大切。何事も早く見切りをつけてはならない(光に向かって)

2011.10.17あとがき
(親鸞聖人の花びら)

2011.10.17はじめに
(親鸞聖人の花びら)

2011.09.30賢者は何人からも学びとる敵将の献策をもちいた韓信(光に向かって)

2011.09.30迷うことなく自分の道を進んでゆくということは、なかなかに難しい(光に向かって)

2011.08.03ニセモノのチャーチルを見わけよ 使命に忠実(光に向かって)

2011.08.03逃げ場がないから必死に戦う 数千の韓信軍、二十万を破る(光に向かって)

2011.06.21殿さまの命令に従わなかった船頭(光に向かって)

2011.06.21なぜ、子供が返事をしないのか 姿にかけた教育(光に向かって)

2011.04.28バカ…だなぁ、私は チエの回転(光に向かって)

2011.04.28二十四度殺された老婆 口は禍の門(光に向かって)

2011.03.31一番好きな人を生命がけで育ててくださったお母さんが、一番好きです(光に向かって)

2011.03.31さてこそ水は尽きたとみえる(光に向かって)

2011.02.24釈尊出世の本懐(白道燃ゆ)

2011.02.24「私も靴屋です」とビスマルク 貴賤を問わぬ温容(光に向かって)

2010.12.13みんな欲に殺される あんな広大な土地はいらなかったのだ(光に向かって)

2010.12.13ヤセがまんではすまなくなる~良妻と悪妻(光に向かって)

2010.11.5満点主義の秀才でなかったから、起死回生の勝利を生んだ(光に向かって)

2010.10.20本当の仕事ができる男 大王の権威もゴミかホコリ(光に向かって)

2010.09.18こうしてドン太は、大根まきができなかった 縁起かつぎ(光に向かって)

2010.09.08小にこだわり大を失う 牛をすられた農夫(光に向かって)

2010.09.08生命はやるが、金は渡さぬ 逃げる石川五右衛門(光に向かって)

2010.07.01ミッドウェーで優勢であった日本艦隊が、なぜ敗れたのか(光に向かって)

2010.06.22腹立ったときは、数をかぞえよ 焼け野原で、ひとり泣きたくなければ(光に向かって)

2010.06.22親鸞聖人の虚像と実像(白道燃ゆ)

2010.06.9自覚症状なき病人(白道燃ゆ)

2010.06.9智恵ある者に怒りなし。よし吹く風荒くとも、心の中に波たたず(光に向かって)

2010.05.25ああ、おれも子供に門番にさせられることがあるのか(光に向かって)

2010.04.02はじめに(歎異抄をひらく)

2010.02.15はじめに(なぜ生きる)

2010.02.01ハッキリするまで、求めぬけ(白道燃ゆ)

高森顕徹 公式サイト
関連リンク集