(59)これへ、その下肥とやらをかけてまいれ、
   とバカ殿   偶像崇拝

光に向かって

偶像崇拝

 江戸時代、父母を同時に惨殺する事件があった。

 子が親を殺すほどの重罪はない。

 奉行たちは無類の凶悪犯罪者に、いかなる処罰を科すべきか、議論百出したが、評議はいっこうにまとまらない。

 そこで、
「かかる極悪人は、どんな極刑に処すべきか」
 裁決を殿さまにあおいだ。

 考えていた殿さまは、やがてこう言った。
「東海道五十三次を、カゴに乗せてブラブラ歩いてやれ。それが一番つらい」

 また、ある殿さま。城下で白菜の漬物を食べた。
 それがたいそう美味で忘れられない。
 城へ帰ってさっそく、白菜の漬物を所望した。

 やがて運ばれた白菜を待ちかねて、ほおばった殿さま。これはなんじゃ、なんともまずい。そこで賄い方を呼んで苦情タラタラ。

「これが城下で食べたあの白菜と、同じものとは、とても思えぬ」

「おそれながら申し上げます。下々で用いまする白菜は下肥を使っております。殿の白菜は、それを使ってはおりませぬ。そのゆえかと存じます」
 賄い方が弁明すると、殿さまは、漬物の皿をズーッと前へ突き出して厳命した。

「これへ、その下肥とやらをかけてまいれ」

 偶像を崇拝させられる大衆は悲劇である。

 

高森顕徹著 光に向かって 100の花束より)


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更新履歴

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2012.04.10これへ、その下肥とやらをかけてまいれ、とバカ殿 偶像崇拝(光に向かって)

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