(5)大将たる者、
    臣下の言葉をよく聞くべし

光に向かって100の花束

「大将たる者の第1のつとめは、臣下の諫言を聞くことである。諫めを受けねば、己があやまちを知ることができない。それゆえに人の上に立つ者は、家来が諫めのしよいように、よくなつかせておかねばならぬ。武田勝頼は諫言を嫌って身を滅ぼし、信長も森蘭丸の諫めをもちいず明智の恨みをかい失脚した。唐の太宗は広く諫言の道を開いたから、子孫長久の基を築いたのである」
 徳川義直は口癖のように、こう教訓していた。
 しかし、諫言に耳を傾け、進んで諫めをいれることは、難中の難事である。
 あるとき、匿名封書を奉った者があった。義直が開封すると、
「お家には、十悪人がおります」
という書き出しで、9人の名前が列挙してあったが、あとの1人が記されていない。
「もう1人は、だれであろうか」
 義直は、近習を見まわしてたずねた。
 そのとき、持田主計という23歳の秘書が、
「それは、殿さまでございましょう」
と答えた。
「なんと申す。余が悪人とな」
 義直は、声をふるわせる。
「他の9人は臣下でございますから、はばかるにおよびませんが、残る1人は、はばかるべきお方ゆえ、わざとお名をあげなかったものと思います。お名をあげずとも、殿さまには、おわかりになると思ったのでございましょう」

 ちょうど、自分が書いたもののように、ヌケヌケと言いはなった。
「余は格別、思い当たるところはないが、なにか欠点があれば言うてみよ」
「ございます。殿さまが、ご改心あそばして然るべしと思うことがおおよそ、10カ条ほどございます。よろしくば申し上げましょう」
と、列座の近習らの前で持田主計は、立板に水を流すごとく、義直の欠点を並べたてた。
 臣下の前で、さんざんにコキおろされた義直は、一時は憤懣やるかたなく、肩で荒い息をしていたが、よくよく反省してみれば、持田主計の指摘には、思い当たる節が多かった。数日後、義直は持田主計を大忠臣として加増し、旧に倍して重用し国政に参与させたという。

 名君と、いわれた所以である。

高森顕徹著 光に向かって 100の花束より)

 

 

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