ハエと人間

白道燃ゆ

 ボルネオ島の人達が、猩々を捕らえるのに面白い方法がある。
 アリックという強烈な酒を彼らは愛飲するが、その酒を数滴落とした水ガメを、猩々の巣の下に置く。
 すると猩々は、その香りに誘われて木を下り、やがて、それを飲み出すのである。
 翌日から彼らは、酒の分量を少しずつ増してゆく。猩々は生まれつき大酒飲みではないが、毎日少しずつ酒を濃くしてやると、知らず知らずの中に酒の味を嗜み、酒豪に変身するのである。
 最後には、生のままのアリック酒を置いても、ガブガブ一気に飲み干してしまうようになる。
 しかし、その時はさすがに猩々は、ポーッといい気分になって人間と同様、酔っぱらいになり、あたりかまわず石を投げたり、木を折ったり、散々暴れ回る。果ては高鼾で寝てしまうのである。
 そこを彼らは、まんまと捕らえるというのである。五欲という迷酒に酔っぱらって、その自覚もない人間程、危ないものはない。
 瀬戸内海で遊覧船が沈没し、大勢の人達が死んだことがある。報道によれば、死んだ人の多くは甲板上に出ていた人達だそうだ。
 船がグラグラした時に、その人達は我先にと自分の船室へ荷物をとりに行って、逃げ損ねて死んだのである。
 地震や火災の時でも、少しでも多くの金や品物を持ち出そうとして、いったん外に出たのに、又家の中へ引き返して、その為に死んでいる人もある。五欲に命をとられたことに間違いはない。
 万物の霊長を誇示する人間も、先の猩々を笑うことはできない。金でも物でも名誉でも、我々の五欲は、渇愛の法則で、満たせば満たす程、欲望は倍加されてゆく。
 その為に生まれ難い人生の目的を見失い、五欲のとりこになり、その為に一命を奪われるのである。
 ハエとり紙に沢山のハエが、餌を求めてきては附着する。驚いて逃げようとするが後のまつりである。
 羽根をブンブンいわせているものもあれば、足を引きずって何とか逃れようと必死のものもいる。ジタバタもがけばもがくだけ、益々附着して、どうにもならなくなる。
 ハエとり紙に引っかかって、身悶えして苦しんでいる同僚を見ながら、また飛んできて引っかかるハエの愚かさを、果たして人間はわらえるだろうか。
 見よ!! 愛欲を求めては附着し、財産を追っては苦しみ、名誉や地位を求めては悩み、その他、無限の欲を求めて悶え苦しんでいる者ばかり。やがて、ぬきさしならぬ従苦入苦の境界に入るのだ。
 果たして人間は、順境が幸福なのか、逆境が幸福なのか分からない。
 順境に甘えて真実の生を忘れて仏法を求めねば、そのまま奈落だし、逆境に発奮して真実の仏法を求めて大信心を獲得すれば、たちまち人生の勝利者になるからである。
 問題は、老少善悪貧富を問わず、真実の仏法を聞信して魂の解決をするか、否かで未来永劫の運命は決定することを、銘記しなければならない。

高森顕徹著 白道燃ゆより)

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