忙しい忙しいで、何処へ行く

白道燃ゆ

 何が何だか分からんが、とにかく忙しい。世間中が、テンテコ舞いしている。街には自動車が正気を失ったように走り回っている。横断歩道を横切るのにも命がけだ。全身を神経にしていないと、たちまち交通戦争の餌食になる。

 やっと家庭へ避難すると、テレビのコマーシャルが「今晩は……」とも言わないで、ジャンジャン居間へ飛び込んで来る。

 これでもかこれでもかと、忙しさをかきたてる。
 とにかく現代は忙しくて、自分を静かに省みる余裕を与えてくれない。現代人は四六時中、自分以外の何かに、よりかかっていなければ生きてゆけない状態である。
 ここに、人間の失格があり喪失がある。自分自身を忘れ去り、刻々に生起する外界の事象に流され、追いたてられて酔生夢死するのだ。

 こんな生き方なら、仮に、80年生きたところで、出生と同時に死んだのと、どこが異なるだろう。ところが多くの人々は、これを「文化生活だ」と手放しに謳歌している。

 我々は決して、現代文明の恩恵を否定する者ではない。家庭の電化一つを、とりあげても確かに便利になった。と言っても、電化生活は単なる生きる手段にすぎない。
 私が生きる、という「私」が何者であるか、ということが分からなければ、感謝するにも感謝のしようがない。

 人生の目的を知らなければ、生きていても生きたとは言えないではないか。
 忙しい忙しいと、かけずり回っている時、誰かに「お前は、何の為に忙しがっているのか」と尋ねられたら、何と答える準備がなされているだろうか。

 忙しい忙しいと走り回っている間にも、無常の殺鬼は念々に迫っているのが、生きとし生ける者の相である。

「仏法には、明日という日はない」

と蓮如上人は、斬り込んでいられる。いのちは、今日も待たず、明日をも待たない。念々刻々に死んで行く。

 かの有名な、ショーペンハウエルは、臨終に「おお神よ、わが神よ」と幾度も叫んだ。「あなたの哲学の前にも、神がありますか」と医者に問われて、「死に向かっては、哲学も神がなくては仕方がない、若し病が治ったら、今迄とは余程違った研究ができるであろう」と答えて彼は死んでいる。

 また、フランスの無神論者、ヴォルテールも、臨終に一方を凝視して「ソレそこに悪魔がいる。オレをつかまえようとしている。アレ、奈落が見えてきた。恐ろしい恐ろしいかくしてくれ」と叫んで息絶えている。

 思えば、この生死の一大事の解決こそ、人間に生まれた本命ではないか。
 これを素通りして、何の文化生活であろう。

 我々は、押し寄せる物量に幻惑されることなく、人生究極の目的を凝視しなければならぬ。

高森顕徹著 白道燃ゆより)

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更新履歴

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2011.10.17はじめに
(親鸞聖人の花びら)

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2011.02.24釈尊出世の本懐(白道燃ゆ)

2011.02.24「私も靴屋です」とビスマルク 貴賤を問わぬ温容(光に向かって)

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2010.05.25ああ、おれも子供に門番にさせられることがあるのか(光に向かって)

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