(27)闇の中で字が読める
     法霖の読書

光に向かって100の花束


(Photo by sakura_chihaya)

 江戸中期、浄土真宗に法霖という大学僧がいた。
 若いころは慧琳といい、19歳で『選択集』を講義して希代の奇才とうたわれた。
 後年、真宗を誹謗した華厳宗の傑僧・鳳潭を相手に大論争をやり、『笑螂臂』5巻を著して完膚なきまでに誤りを正し、名を天下にとどろかせた。
 その法霖が鷺森別院の役僧をしていた17歳のとき、ある夕方、輪番が火の用心のために見まわると、本堂の後ろの真っ暗がりの中で、一心に読書しているものがいるので驚いた。
「そこにいるのは、だれか」
「はい、慧琳でございます」
「こんな闇の中で字が読めるのか」と言われて振り向いて、ふたたび書物に向いたときは、もう文字は見えなかったという。
 熱中していたので、闇の中でも字が読めたのであろう。
 またあるとき、友達が海水浴に誘った。
「ちょっと待ってくれ、ここまで読むから」
と立ち上がらない。
 どれだけ待ってもやめようとはしない。
「いいかげんにしろ」
「すまんが後でゆくから先にいってくれ。おもしろくてやめられないのだ」
「それじゃ、この帽子をかぶってこいよ」
と、頭の横にかぶせていった。
 夕方になっても法霖はこなかった。みんなが帰ってみると、帽子を横にかぶったままの姿で、読書にふけっていたという。
   精出せば  凍るひまなし  水車

高森顕徹著 光に向かって 100の花束より)

 

 

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