(22)「ああこれで、
     ぼくは、英国人の誇りをキズつけないですんだ」
     彼の誇りとは……

光に向かって100の花束


(Photo by Elsie esq.)

 菊池大麓博士といえば、世界的数学者。
 かつて、イギリスのケンブリッジ大学に留学中は首席を貫いていたが、あるとき、重い病にかかり、長い入院生活を余儀なくされた。
 ために学校の欠席が続いた。
 誇り高き英国の学生たちは、他国のものにトップを独占されている、日ごろのウップンを晴らすはこのときなりと、次席のブラウン君を、こう励ますのであった。
「いよいよ君にチャンスがきたのだ。菊池は病気で講義を筆記することができない。今度こそ、大英帝国のメンツにかけても、君が首席を取ってくれなければ」
 やがて菊池の病気も全快し、学期試験も終わって、発表された成績は、やはり、菊池が1番でブラウンは2番であった。
 ブラウンはしかし、こう満足そうに、1人つぶやいたという。

「ああこれで、ぼくは、英国人の誇りをキズつけないですんだ」

 ブラウンは、病床中の菊池に、毎日、ノートを送り続けていたのである。
 他人の不幸を願い、友の失敗を喜ぶ人の世に、なんと奥ゆかしい友情だろうか。他人の苦悩を笑う世に、高潔な紳士の誇りこそ、キズつけたくないものである。

高森顕徹著 光に向かって 100の花束より)

 

 

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