(17)花嫁が泣くのは、
     初めて親心のありがたさを知るからだ

光に向かって100の花束

 ある娘が嫁いだ。
 結婚式も披露宴も無事にすんだ翌日、花嫁は姑に両手をついてたずねた。
「お母さま、今日は、なにをしたらよいでしょうか」
「まあ、ここしばらくは急ぐこともないし、おまえも疲れているだろうから休みなさい」
 姑は、やさしくいたわった。
「いいえ、お母さま。私なら少しも疲れてはおりません。へたですが縫い物でもあったら手伝わせてください」
「そんなにまで言ってくれるのなら、ゆっくりでよいから、この着物を1枚、縫ってもらおうか」
 姑は、緋縮緬の裏表打ち通しのものを出してきた。
 これは自分の腕だめしだ。立派に縫い上げねばと花嫁は、その晩遅くまでかかって仕立てあげた。
「おはようございます、お母さま。昨日お預かりしました縮緬の着物、不出来ではございますが、やっと縫いあげました。どうぞ、ごらんください」
 あまりの速いのと、見れば、実にきれいに縫えているのに、姑は2度びっくり。さっそく、近所隣まで見せにまわるという喜びようであった。
 花嫁は、うれしさが胸いっぱいにこみあげてくると同時に、実家の母のことが思い出されて泣いた。

 日ごろ、「こんな縫いざまがあるか」「なんという不調法な子だろう」「もっと性根を入れて縫わないか」と、さんざん叱られて、幾度も縫い直しをさせられたときは、母を恨み、怒っていた自分であった。

 しかしあのように、厳しく叱って鍛えておいてくだされたからこそ、みなさんに、ほめてもらえることができたのだ。
 今にしてはじめて、尊い母の心づかいを知って花嫁は、親心のありがたさに泣いたという。

   にくくては  叩かぬものぞ  笹の雪

高森顕徹著 光に向かって 100の花束より)

 

 

光に向かって100の花束 もくじへ

高森顕徹 公式サイト
更新履歴

2010.07.06『光に向かって100の花束』の書評

2010.07.01ミッドウェーで優勢であった日本艦隊が、なぜ敗れたのか(光に向かって)

2010.06.22腹立ったときは、数をかぞえよ 焼け野原で、ひとり泣きたくなければ(光に向かって)

2010.06.22親鸞聖人の虚像と実像(白道燃ゆ)

2010.06.9自覚症状なき病人(白道燃ゆ)

2010.06.9智恵ある者に怒りなし。よし吹く風荒くとも、心の中に波たたず(光に向かって)

2010.05.25ああ、おれも子供に門番にさせられることがあるのか(光に向かって)

2010.04.02『歎異抄をひらく』の書評

2010.04.02はじめに(歎異抄をひらく)

2010.03.31『なぜ生きる』の書評

2010.02.15はじめに(なぜ生きる)

2010.02.01ハッキリするまで、求めぬけ(白道燃ゆ)

2009.11.12なにが家康を天下人にしたか。失敗の教訓(光に向かって)

2009.10.8魚をとるのは、どの猫でも同じ(光に向かって)

2009.8.12流刑の真因は何か(白道燃ゆ)

2009.6.16鼻もちならぬ善(白道燃ゆ)

2009.5.29浄土や地獄は実在するのか(白道燃ゆ)

2009.5.14笑う門には福来る(白道燃ゆ)

2009.5.1すべての人は平等である(白道燃ゆ)

2009.4.18三人の妻(白道燃ゆ)

2009.3.29金はいくらでも出す、助けてくれ(白道燃ゆ)

2009.1.20平成21年 年頭所感

2008.11.25血統と仏教(白道燃ゆ)

高森顕徹 公式サイト
関連リンク集