(16)にこやかな笑顔と、
     明るいあいさつほど
      世の中を楽しくするものはない

光に向かって100の花束

 ジョン・ワナメーカー氏は、デパート王といわれる。
 店員募集の広告を見て、1人の青年がやってきた。
 みずから面接したワナメーカーの質問に彼は、
「イエス、ノー」
と、適切に即答して少しの誤りもなかった。
 体格も立派だし、学力も十分。
 同席者は採用を確信して疑わなかった。
 ところがどうしてか、不合格になったのだ。
「たいそう、よい青年のようでしたが、どこかお気に召さないところがありましたか」
 側近の不審にワナメーカーは、こう言っている。
「あの青年は、私の質問に、『イエス、ノー』と、ぶっきらぼうに言うばかりで『イエス・サー、ノー・サー』(敬称)と、丁寧な物言いをしなかった。
 あんなふうではきっと、お客に親切を欠くことがあるにちがいない。
 親切第一がモットーの私の店には、雇うわけにはゆかないのだよ」
 たったの一言が、いかに大切か。
「社長が愉快げに“おはよう”とあいさつされると、1週間は楽しく働ける」
 こう言って、ワナメーカー氏の店員たちは、喜々として働き、店は栄えに栄えたという。

 なにが社会奉仕といっても、にこやかな笑顔と明るいあいさつほど、世の中を楽しくするものはない。

 彼は街頭をゆく楽隊のように、四方に光明をバラまく。
 笑顔とあいさつを出し惜しむ者ほどの、ドケチはないといってよかろう。
 ちょっと目もとの筋肉を動かし、わずか一言、二言を話すだけで、人に幸福を与えることができるのに、それすらもケチるからである。

 シドニー・スミスは、おもしろいことを言っている。
「少なくとも1日に1人を喜ばせよ。10年すれば、3650人を喜ばせることになる。
 一町村あげて喜ばせる、寄付金を出したのと同様だ」
 まさに釈尊の“和顔愛語”の布施行である。

高森顕徹著 光に向かって 100の花束より)


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更新履歴

2015.01.08あわれむ心のないものは恵まれない~試された親切心(光に向かって)

2014.01.22すぐ100万円を持っていったのは、なぜか~恩知らずになりたくない(光に向かって)

2014.01.22殺して生かす ~相手を裏切り、ののしられ、迫害も覚悟しなければならぬこともある(光に向かって)

2013.11.25甚五郎のネズミはうまかった~技量と智恵(光に向かって)

2013.11.25だから青年白石は三千両を拒否した~信念は未来を開拓する(光に向かって)

2013.09.30世界一おいしいご馳走ができあがりました、と料理人は言った(光に向かって)

2013.09.30最初から負けていた~勝利のカギ(光に向かって)

2013.08.24大石内蔵助の13年間~先見と熟慮(光に向かって)

2013.08.24生活の乱れた学生の更生法~大学教授のたくみな指導(光に向かって)

2013.07.25下等の人間は舌を愛し、中等の人間は身を愛し、上等の人間は心を愛する(光に向かって)

2013.07.25牛糞を食わされた祈祷師(光に向かって)

2013.06.07笛を高く買いすぎてはいけない(光に向かって)

2012.10.04おまえはなぜ、3階を建てんのだ 本末を知らぬ愚人(光に向かって)

2012.10.04やめよ!やめよ!と突然、早雲は叫んだ なりきる尊さ(光に向かって)

2012.09.06まもなく、若い社員の一人が解雇された 排他は自滅(光に向かって)

2012.09.06猫よりも恩知らずは、だれだ 腹立てぬ秘訣(光に向かって)

2012.08.06人を身なりで判断はできない 一休と門番(光に向かって)

2012.08.06富んでも、昔の貧しさを忘れ、おごるなかれ 岩崎弥太郎とその母(光に向かって)

2012.05.30この娘を美しくないという者があれば、金子千両を出してやろう(光に向かって)

2012.05.30施した恩は思ってはならぬ。受けた恩は忘れてはならない(光に向かって)

2012.04.10己を変えれば、夫も妻も子供もみな変わる(光に向かって)

2012.04.10これへ、その下肥とやらをかけてまいれ、とバカ殿 偶像崇拝(光に向かって)

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