(13)「どうぞ」の一言と
     ほほ笑みに、
      すっかりほれこんでしまった

光に向かって100の花束

 向かいの家へ、新婚夫婦が引っ越してきた。
「どうせ、このごろの女ですもの、ロクな近所づきあいもしないに決まっていますよ」
 奥さんが主人に話している。
 それから1週間ほどたったある日。
 その奥さんが、赤ん坊を抱いて表へ出ていると、ちょうど、うわさの嫁さんが帰ってきた。

「お寒うございます」
と、あいさつしてから、
「まあ、おかわいらしい赤ちゃんですこと! ばあ! まあ、あんなに笑って!」
と、やさしい笑顔で、赤ちゃんをあやした。
 するとどうだろう。
 その晩、例の奥さん。
「ねえあなた、他人ってわからないものねえ。今度、お向かいへ引っ越してきた新婚さんねえ、案外、感じのいい方だわ。私、すっかり好きになってしまった」
と、ニコニコしながら、主人に話したという。

 最近、あるデパートの食堂に働いていた、ウエートレスのA子さんが、一躍、某富豪へ、お嫁にもらわれていった実話がある。
 A子さんを見初めた、某富豪の老母の話を聞いてみよう。
「私が、あそこの食堂で、ちょっとした食事を注文したとき、運んできたウエートレスが、“どうも、おまちどおさま”と言って、お膳を私の前にすえ、さらに“どうぞ!”と軽く、ほほ笑んでみせました。
 その笑顔も、決していやしい媚びではなく、本当に女らしい愛嬌でした。
 たいていなら、“おまちどおさま”と言って、ただそこに置いていくだけなのに、その人は、“どうぞ!”と言って、チャンと前へすえ直してくれました。

 私は“どうぞ!”の一言と、そのほほ笑みに、すっかりほれこんでしまったのです」

 女の未来は、やさしい言葉と愛嬌にかかっているようである。

高森顕徹著 光に向かって 100の花束より)

 

 

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更新履歴

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