浦島太郎と真実の仏教

白道燃ゆ

 日本人なら誰しも、幼い時に、浦島太郎のオトギ話を聞かされたものだ。
 漁師の浦島太郎が、浜へ漁に出かけると1匹の大きな亀が、大勢の子供達に虐待されていた。
 可哀相に思った浦島太郎は、再三再四、子供らに無罪放免するよう説得したが、子供達は一向に聞き入れない。
 そこで情け深い浦島太郎は、子供達に銭を与えて亀を買いとり海へ放した。幾度も礼を言って亀は海中に姿を消した。
 数日後、舟を浮かべて漁をしていた浦島太郎のところへ、先日助けた亀がポッカリ浮かんだ。「この前の御恩返しに、今日は善い処へ御案内致しましょう」と、龍宮城へ連れて行かれた。乙姫さまに迎えられた浦島太郎は、山海の珍味でもてなされ、限りない楽しみを味わった。
 故郷に帰った浦島太郎は、乙姫さまから贈られた玉手箱を開くと、モクモクと白煙が立ち昇り、浦島太郎は、忽ち白髪の老翁になってしまったという話である。
 父母や学校の教師は、この話をした後で、
「だから皆さんも、浦島太郎のような、情け深い、生物を可愛がる心の優しい人になりなさいよ」
と教えてくれた。
 知らず知らずのうちに、善い因を蒔けば善果が生え、悪い因を蒔けば悪果があらわれ、自分の蒔いたものは自分が刈り取らねばならぬ、という因果の大道理を教えられていたのである。
 善因善果、悪因悪果、自因自果の因果の法則の教訓は尊いが、果たして、浦島太郎は生物を可愛がる、情け深い、心の優しい善人なのであろうか。
 多くの人は、浦島太郎の言動に、大きな矛盾のあることに、気付いてはいないようである。
 子供達に銭まで与えて、亀を助けた浦島太郎の肩には、何百何千の魚の生命を奪った、また、今から奪うであろう、魚つり竿が担がれていたのである。
 この場合、亀も魚も、同じ意味に扱われているのであるから、大変な矛盾と言わなければならない。
 本当に浦島太郎が、一切の生命を愛する善人であるならば、先ず、彼の魚つり竿を叩き折るべきである。
 一方で何百何千の殺生を平気でやりながら、たまたま1匹の生命を助けたといって如何にも情け深い善人に見せかけるのは、余りにも見えすいた偽善と言わなければならないだろう。
 では、浦島太郎は、彼の生活を支えている魚つり竿を、折ることができるであろうか。それは彼にとっては到底、不可能の事なのだ。なぜならば、それは彼の自殺を意味するからである。
 ここに、善人たらんとする浦島太郎の限界がある。一つの生物の生命を助けることはできても、その何十何百、何千倍の生物の生命を奪わずしては、生きてゆけない、人間、浦島太郎のギリギリの姿がある。
 しかもそれはそのまま、総ての人間の限界でもあり、実相なのである。
「汝ら、心は常に悪を念じ、口は常に悪を言い、身は常に悪を行い、未だかつて一善もなし」(大無量寿経)
の仏語や、「一生造悪」の親鸞聖人のお言葉は、この人間の限界を見きわめられた、悲痛な叫びであり、人間の実相を道破されたご金言にほかならない。
 では、玉手箱を開けた時、なぜ、一瞬にして浦島太郎は、白髪の老翁になったのか。
 悪しか為し得ない我々が、善いことをしていると自惚れて、フワフワ浮いたかひょうたんで過ぎ去る一生の早さを教えたものだろう。
 一生造悪の極悪人が、その自覚も無しに、パッと白煙が立ち昇る一瞬の人生に驚いた時は、すでに人生の終着駅についているのである。
 このように知らされると、子供のオトギ話と思っていたことも、実は、真実の人間の相を教え、早く、信心決定し、絶対の幸福を獲得せよ、の真実の仏法そのものになるのである

高森顕徹著 白道燃ゆより)

 

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