相対の幸福と、絶対の幸福 (2)

白道燃ゆ

 有名な、ノーベル賞の本家、スウェーデンは、鉄鉱、森林、水力などの天然資源に恵まれ、機械、化学、工業等の産業も盛んで、食糧は自給自足だし、国民の生活水準は米英を凌ぎ、その上、社会保障制度と社会施設は完備して、ユリカゴから墓場まで生活上の不安は、何一つない北欧の文化国家である。
 首都ストックホルムの駅のスタンドに、腕時計を忘れた一日本人が、翌朝気がついて行ってみると、時計はそのままスタンドの上に置いてあったという。
 万事せちがらい日本などと比べると、この世の極楽ではないかと思われる。

 ところがである。
 驚く勿れ、この国の自殺者の率は世界一高い(※注)と言われるのだ。自殺と言えば、大概貧乏の悩みとか、病苦とか、相場がきまっているものだが、こんな恵まれた平和国家に、このような悲劇がおこるのは一体なぜだろうか。
 これは明らかに、金や物さえ豊かなら人間は必ず幸福になれる、という多くの人々の抱いている深い迷信を、根底からくつがえしたものである。
 そして「無ければ無いことに苦しみ、あればあることに苦しむ」と説かれた『大無量寿経』の金言を実証するものである。
 いわゆる、金や物や男女、子供、名誉、地位等の相対の幸福のみでは、本当の幸福や満足は獲られないということである。

 勿論、仏教は相対の幸福を不必要だとか、障害物だとか言って排斥しているのではない。それどころか、少しでも幸福になる為には大切なものであり、求めなければならないことは言をまたない。
 ただ、それだけで人間が、不安、苦悩、不満を征服して真の幸福になれるんだ、と考えている迷信を破っているのである。
 この頃、世間で騒がれている徳川家康の有名な言葉に「人生は重荷背負うて、遠い道をゆくようなものだ」というのがある。さすが苦労人の家康である。
 この真実の一端を覗いている。結局、人生は苦しみの連続だと言っているのだ。

 仏教の教える絶対の幸福を獲られずに、死んでゆく人間の一生は、総て苦しみの連続にすぎない。
 あの人生の大成功者と羨まれる家康にして然りではないか。
 かの原子物理学の権威、湯川秀樹氏は「科学と宗教」に、次のように言っている。
「20世紀の科学は、19世紀の延長ではない。宇宙開発という極大の世界から、電子顕微鏡による極小の世界まで照らす時代だ。しかし人間は、それだけで幸福にはなれない。宗教こそ本当の幸福を与えてくれるものだ」
 どの道でも、極むればこの真理が分かってくるものらしい。

(※注)近年はスウェーデンの自殺率は低下している。

高森顕徹著 白道燃ゆより)

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